Arm Angle と投球分布の結びつきは直感的にも多くの野球ファンが認識していることと思います。この前提は、コマンドの評価やコマンドを介在する各要素の探究の際に忘れてはいけないものです。
そこで今回は、これからもお世話になるであろう Statcast データでの Arm Angle と投球分布の関係性を改めてまとめ、今後のモデル構築をはじめとする分析の基盤となる、言わばエピソード #0 の検証をしていこうと思います。
以降、補足なしに Arm Angle と述べる際は Statcast における Arm Angle とします。
3 - 0 カウントを対象とした検証
Arm Angle と投球分布
まずは、単純に Arm Angle と投球分布の関係を見てみましょう。
ただ、最低限のサンプリングは必要です。投球分布と言っても、今回測りたいのはコマンド、つまり、狙ったところからのズレですので、3 - 0 カウントに絞ります。このサンプリングは サンプルサイズに甘えが利く MLB だからこそできるものではありますが、コマンド関連のサンプリングの基礎とも言えるでしょう。もちろん、状況によって例外は存在しますが、3 - 0 カウントほど投手の狙いが一致しやすい文脈はそうそうありません。
以下の図は、3 - 0 カウントの速球において、その投手内偏差の分布を Arm Angle ごとに示したものです。
共通認識通り、Arm Angle に沿って投球が分布している様がうかがえます。サイドスローほど左右に、オーバースローほど高低にずれています。
投手内偏差ということで自由度の消費に関わる分散の過小評価は気になりますが、最低投球数を 40 球に設定していますので、その影響は限定的です。いずれにせよ、主題である Arm Angle と分布の角度には影響しません。また、最低投球数に関わるノイズは角度の推定の不安定さに影響しますが、系統的なズレではありません。最低投球数を 30 - 80 で段階的に比較しても、結論が変わる差は確認できませんでした。
大まかな雰囲気は掴めたと思いますので、「Statcast が測る」Arm Angle という部分にも注目します。ご存じの方も多いとは思いますが、Statcast が測る Arm Angle は腕全体の角度ではありません。投球動作において腕全体が一直線になる訳ではないので、そもそも腕全体の角度を一意の数字で定量化できません。そこで、Statcast は Arm Angle を肩とボールを結んだ直線が作る角度としています。想像すれば分かりますが、この測定方法は、肘関節や手首関節からの角度という視点では Arm Angle の絶対値を過小評価します(アンダースローは逆です)。
つまり、肩からの視点ではなく、肘や手首からの視点の方が投球分布に影響するのであれば、その測定方法は Arm Angle と投球分布の角度に系統的な正の誤差を生み出します。
Arm Angle との系統的な誤差
以下の図は、Arm Angle と投球分布の長軸の角度との関係を示したものです。
傾きが 1.0 と区別できないように、Arm Angle が変われば同じ幅だけ投球分布の楕円の長軸角度も変わる関係が示唆されますが、系統的なズレも確認できます。先に述べたように、肩視点での Arm Angle は実効的には Arm Angle を適正より小さく見なしています。
以下の表はそれらを数値でまとめたものです。
| Arm Angle 別の散らばりの向き | |||||
| 3-0 の速球、投手内偏差ベース | |||||
| Arm Angle | 投手数 | 平均 | 長軸角度 θ | θ − Arm Angle | 短軸/長軸 |
|---|---|---|---|---|---|
| (20,25] | 13 | 22.5 | 36.3 | 13.8 | 0.7 |
| (25,30] | 20 | 27.6 | 39.0 | 11.5 | 0.7 |
| (30,35] | 27 | 32.4 | 44.9 | 12.5 | 0.7 |
| (35,40] | 54 | 37.5 | 42.3 | 4.9 | 0.7 |
| (40,45] | 50 | 42.6 | 50.7 | 8.1 | 0.7 |
| (45,50] | 45 | 47.0 | 57.8 | 10.8 | 0.7 |
| (50,55] | 20 | 52.5 | 65.1 | 12.6 | 0.7 |
| (55,60] | 13 | 56.2 | 66.9 | 10.8 | 0.7 |
いずれの Arm Angle 帯でも投球分布の長軸角度の方が Arm Angle より大きく、平均的には +8.86 度のズレがあります。35度~45度のビンはズレが小さく見えますが、この 3 - 0 サンプリングでは各投手の推定誤差が大きく、投手の個人差も加わるので、ビン間の差は有意ではありません。
また、投球分布の短軸と長軸の比は、どの Arm Angle 帯でも変化はなく、分布の形については Arm Angle による違いは確認できません。
ただ、ここまでの投球分布はあくまでもプレート前面での分布ですので、Arm Angle 帯の球速を含めた変化量の差にも対応できているか確認しておきます。以下の図は、リリース時点での投手内偏差を使用した場合との比較を示したものです。
両者の差は平均 -0.1度で大きなズレは生じておらず、45度~50度のビンも含めて信頼区間は 0 を含んでいます。プレート通過時点の前、リリース時点ですでにその系統的なズレは生じています。
球種による違い
速球を対象としていますが、その中での球種の違いも確認しておきます。以下の図は、投手・球種別に Arm Angle と分布の長軸角度の関係を示したものです。
FF と SI での差は −1.7度(95%CI −6.2 ~ 2.9、p = 0.47)で差があるとは言えません。若干、回帰線の傾きが違って見えるように、FF と SI では肘関節、特に手首関節はその使い方は変わりますし、サイドスローに近い投手と、オーバースローに近い投手では SI に求める変化のために手首の使い方が変わり、その影響が分布に出る可能性も否定できません。ただ、SI を一定数投げる投手は低 Arm Angle に偏っており、それらを検出できるだけのサンプルサイズが確保できないというのが現状の課題です。
まとめ
では Arm Angle がコマンドに及ぼす影響について軽くまとめておきます。
以下の図は、投球分布の「向き」・「形」・「大きさ」について、Arm Angle との関係を示したものです。
このうち、Arm Angle との関連が認められるのは「向き」のみです。Arm Angle と分布の長軸角度は連動し、Statcast が測定する Arm Angle からは系統的に 9度前後、その角度が大きくなります。
そして、分布の形がより円形に近づいたり、細長くなったりという傾向は見えません。また、平均からの距離そのものとの関係も見えません。
今回の手法は 3 - 0 カウントの速球に絞るという簡易的なサンプリングでした。ただ、それ故の限界も見えましたので、次回は別の手法で検証してみようと思います。
データ参照
・Baseball Savant(参照日:2026/08/05)