library(mgcv)
m_hbp <- bam(
hbp ~ te(plate_x_rel, z_ht, k = c(25, 25)) +
s(haa_rel, k = 10) + s(release_speed, k = 10) +
s(break_in, k = 10) + ti(plate_x_rel, break_in, k = c(10, 10)) +
s(vaa, k = 10) + ti(vaa, z_ht, k = c(10, 10)),
family = binomial,
data = df,
discrete = TRUE,
select = TRUE
)内角を狙わない野球の祭典 マイナビオールスターゲーム2026 を横目に、トラッキングデータで死球を予測するモデルの構築とそれを活かした探究をしてみます。
モデルの構築
まず、各投球に対する予測死球確率を推定するモデルを構築します。
いろいろ試行錯誤した結果以下の説明変数を用いることにしました。
| 変数名 | 項 | 説明 |
|---|---|---|
plate_x_rel × z_ht |
te() |
ホームプレート前面での x 座標(左右相対化)× ホームプレート前面での z 座標(打者の身長で相対化) 。 |
haa_rel |
s() |
左右相対化した HAA。 |
release_speed |
s() |
球速。 |
break_in |
s() |
打者方向への横変化量。 |
plate_x_rel × break_in |
ti() |
ホームプレート前面での x 座標(左右相対化)× 打者方向への横変化量。 |
vaa |
s() |
VAA。 |
vaa × z_ht |
ti() |
VAA × ホームプレート前面での z 座標(打者の身長で相対化) 。 |
te() は主効果と交互作用の両方を含む項
ti() は交互作用項のみを含む項
これらの変数を用いて死球確率について、以下の一般化加法モデル(GAM:二項ロジスティック)で推定します。
まず、大きな要素である投球コースですが、死球は厳密には Statcast が記録するプレート前面(2026年以降はプレート中間面)では発生しません。ただ、理論的には HAA や変化量で十分に外挿でき、打者との接触位置を予測したモデルに精度で劣ることはなかったのでこの手法としました。
ti(plate_x_rel, break_in) や ti(vaa, z_ht) という主効果を含まない交互作用項がありますが、break_in や vaa それ自体には死球確率を上下させる効果を持ちません。あくまでも投球位置に依存する形でのみ現れる効果ということです。直感的にも分かるポイントかと思います。
Null space penalty を有効化しているため、s(break_in) と s(vaa) は実質的にモデルから除外されています。
検証は 2021 - 2024年 をテストデータとして 2025年を予測し、変数の構成を確定させましたが、ここから使う最終的な xHBP% は全データで推定し直したものです。
このモデルで推定された死球確率のヒートマップが以下です。
瞬間的な可動域が小さく、投球との接触に関わる表面積の大きな部位でより死球確率が高くなっていることが分かります。地面付近はバウンド投球が混在し、ヒートマップにすると実際の打者との接触位置とのズレから信頼度が下がりますが、各投球の xHBP% としてはバウンド投球の精度も保たれています。
予測死球率との比較も置いておきます。
ではここから xHBP を活用して MLB での傾向を探ります。
xHBP を活用した傾向分析
年次
まずは年次での傾向があるか見てみます。以下のトレンド図は 2021 年から 2025 年にかけての HBP/xHBP と xHBP% の推移についてまとめたものです。
近年ほど打者は死球になりそうな投球を避けない傾向にあります。対して、xHBP% は減少傾向にあり、これは Davy Andrews の 2025 年の記事とも整合します。つまり、投手は死球になりやすい投球を減らしているが、打者はそれを避けなくなり、単純なリーグスタッツでは見えない、打者が避けなくなっている傾向がこのモデルから見えてきています。
打席の左右
続いて打席の左右での傾向を見ます。今回のモデルには投手や打者の利き手という情報を入れていませんので、重大な説明変数の漏れがない限り、打席の左右での傾向も見えてきます。
| 見逃し数 | HBP | xHBP | 差 | HBP/xHBP | HBP% | xHBP% | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 右打者 | 1,059,817 | 6,300 | 6,669 | −369 | 0.945 [0.926, 0.964] | 0.59% | 0.63% |
| 左打者 | 788,782 | 3,897 | 3,528 | 369 | 1.104 [1.077, 1.132] | 0.49% | 0.45% |
2021 - 2025 の間に、右打者は 369 ほど期待より死球の数が少なく左打者はその逆です。xHBP% は右打者の方が高いように、右打者の方が死球になりやすい投球を受けやすい傾向にあるため、単純な死球確率だけを見ると右打者の方が死球を避けない傾向にあると判断してしまいがちですが、それは誤りでしょう。
図 3 は打者の HBP/xHBP の分布を示しています。分布の山が右打者と左打者で違うことが見て取れます。
右打者の方が死球を避けやすい傾向にある理由として考えられるのは、右投手と左投手の割合の差でしょうか。同利き手(右 vs 右、左 vs 左)の対戦の方が死球になりやすい投球がくることは試合を見ていても感じられると思いますが、同利き手の対戦が多い右打者の方が死球になりやすい投球を多く受けますので、死球を避ける訓練も多く積めています。その慣れの差が数字に出ていてもおかしくないでしょう。
ピッチカウント
続いてピッチカウント別に見ていきます。以下がピッチカウント別の HBP/xHBP です。
三振のリスクのある 2 ストライクカウントにおいて、一貫して打者は死球を回避していない傾向あります。逆に目立つのが、打者が極めて消極的になる 3 - 0 カウントです。2 ストライクカウントでの当たりやすさも含めて、スイング動作と死球回避動作の相反度合いが見て取れます。
投手の投球特性を考慮したピッチカウント別のスイングの積極性については、「デルタ・ベースボール・リポート 8」の〈ピッチカウントの非中立性に起因する投手と打者の攻防〉の章が参考になります。
ただ、0 - 1 や 0 - 2 より打者が消極的になる 0 - 0 と、打者が他の 2 ストライクカウントより積極的になる 3 - 2 において、そこまで相反度合いが現れていないように、死球のリスク・リターン価値も影響していそうです。
3 - 0 では死球になりやすい投球という時点で出塁がほぼ確定するので 0 - 0 より避けることの価値が上がる。つまり 0 - 0 では相対的に避けないことの価値が上がるので、打者のスイングの積極性の割には死球になりやすいということです。3 - 2 は他の 2 ストライクカウントより、打者はよりスイングを仕掛ける傾向にありますが、その割には死球のなりやすさは傑出していません。他の 2 ストライクカウントでの死球の価値は 3 - 2 より高いのでこの傾向も打者としては合理的です。
また、投手としては、打者が避けやすいカウントほど死球になりやすい投球は少なく、打者が避けにくいカウントほど死球になりやすい投球は多くなっています。一見非合理的にも見える傾向ですが、ストライクカウントが欲しいカウントで死球になりやすい投球を投げるのは非合理的ですし、配球の中で死球になりやすい投球(ボール球)の価値を相対的に上げるのはボールカウントに余裕があるときや、打者が避けにくいカウントになることは想像に難くないでしょう。打者としては、同じ物理的特徴を持った危険な投球でも、普段より避ける意識が働いていないときの方が「怖い」はずです。
レバレッジ
続いてピッチカウント以外の側面からもレバレッジ的視点で見ていきます。まずは一般的な勝率的尺度におけるレバレッジです。ピッチカウントの傾向は以降述べる傾向に比して大きな影響がありますので、ピッチカウントの影響を統制しています。
全体の傾向として、ハイレバレッジになるほど打者は避けない傾向にあります。
もちろん、死球には怪我はつきものですので、どうせ当たるなら重要な場面の方が良いことは確かです。ただ、この傾向が、打者が死球の相対的価値を理解した戦略的な要因と決定づけるにはもう少し深い分析が必要です。
続いてのレバレッジ的視点として、塁・アウト状況における死球というイベントの価値の違いに着目してみます。以下の図は各状況における死球の得点価値と、その状況での HBP/xHBP を示したものです。
満塁という死球の得点価値が最大化する状況では打者が避けにくくなるように、死球の得点価値との相乗の傾向は感じられます。ただ、一死二三塁や二死二三塁のようなチャンスではあるものの、死球の得点価値が相対的に低い状況でも打者は避けにくい傾向にあり、完全に RE24 に基づいているとは言えません。
無死走者なしは二死走者なしより後続に託せる場面であり、出塁のレバレッジは上がりますが、他の走者なしと比較して打者が死球を避けない傾向にはありません。統計的なレバレッジと選手の心理的なレバレッジの差について考えるのも面白いかもしれません。
また、ピッチカウントと同じように塁・アウト状況でも死球の価値が高い状況で投手は xHBP% の高い投球を少なくしている傾向は見えません。むしろ、重要度の高い状況こそ、怪我をさせる確率の高い投球をすることの心理的ハードルが下がっている可能性も示唆されます。
打力
最後に、対戦投手の力量や打者の力量での傾向を見ます。野球漫画でもこの文脈を活かした描写はありがちな気がしますが、理論的には、好投手ほど死球の相対的価値が上がり、好打者ほど相対的価値は下がります。
以下の図は投手と打者について、死球を除いた xRV(打球部分について、打球速度・垂直角度・水平角度で RV を予測した状況中立的 RV) で 5 つのグループに分け、傾向を見てみます。
まず、投手帯別の HBP/xHBP ですが、先に述べた、好投手ほど死球の相対的価値が上がる現象に相乗する傾向は見えてきません。打者は好投手と対戦する際に、死球を避けなくなる傾向があるとは言えない結果です。
一方、打者帯別の HBP/xHBP を見ると、全体的な傾向ではないですが、最上位の好打者については他の打者より死球を避ける傾向にあります。好打者は怪我のリスクや死球以外の価値が他の打者より高く、死球を回避する動機がより働くという理論的な推論に実態が沿っている結果です。
ただ、好打者がそのような自身の価値を理解した上での結果とは断言できません。というのも、これらの好打者がより価値の高い状況(満塁など)で死球回避行動が抑えられるという傾向はありませんでした。自身の価値を理解した上で死球をより回避している可能性は否定できませんが、塁アウト状況などのレバレッジも理解した行動には少なくともなっていないということです。考えられる他の要因として、好打者に備えられた反射神経や選球眼が死球回避に役立っているという点も捨てられないでしょう。
ちなみに、勘が良い方は気づいているとは思いますが、今回のモデルは打者のボックス内での立ち位置を考慮していません。つまり、好打者と立ち位置に相関があれば、上記の説を棄却できる可能性があるということです。結論として、打席の立ち位置データが入手できる 2023 年以降において立ち位置の効果を検証しましたが、まず打力との関連は薄く、立ち位置を統制しても結果として結論は変わりませんでした。モデル自体はホームプレートからの距離という説明変数は、精度向上に寄与しました(ボックス内での深さは寄与しませんでした)ので、打者の純粋な回避能力を見るには立ち位置を考慮したモデルを使うのが良いでしょう。
おわりに
今回は SNS 上では感情的な話だらけで、議論にならないテーマ「死球」にトラッキングデータの力を借りて向き合ってみました。本文では触れていませんが、打者の死球回避には年を跨いだ一貫性があります。打者が被害者として扱われて終わりではもったいない程度の奥深さが死球にはありますので、投手の過失としてだけでなく、打者のスキルとしても死球を捉えていければと思います。
データ参照
- Baseball Savant(参照日:2026/07/30)
- FanGraphs(参照日:2026/07/30)